不定期日誌はいろすた

スーパー気まぐれ更新

【小説】蒼き使命

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意識を取り戻した私の眼前にあったのは、見知らぬ部屋の天井だった。
ついさっきまで私は何をしていた?そうだ、確か任務でとある街へと攻め入っていた筈だ。

しかし目の前にあるのはビル群など見えない平面。私は今、屋内にいるのか。
ついさっきまで交戦していた。突如として何かが現れ、奇襲を受け、そして…

 

そこから先は記憶が無い。

 

兵として参加したのは私とイグニムしかいない。助けが入る訳がない。
きっと負けたのだろう。

それでも無事と云うことは、敵は私を捉えて捕虜にしたのか。
自身の身体を眺め、損傷した箇所が全て元通りになっていることを確認する。
これは改造された身体であるから当然なのだが。次世代兵器とはよく言ったものだ…

 

そんなことより、気がかりなことが一つある。

 

捕虜であれば手錠の一つや二つがかかっていてもおかしくはない筈だ。
それが、私の手には無い。

身体を起こし、部屋の全景を確認する。
どうやら牢といった機能を持ち合わせていない部屋のようだ。むしろこれは、機械用メンテナンスに優れた施設か?
私は手厚く保護されているのか?このままでは相手の意図が掴めない。私は扉へと向かうことにした。


「お目覚めか」


扉が開いた途端私にかけられた声、それは随分と聞き慣れていた声であった。
と同時に、その声の主は我々に敗北を齎した人物そのものであった。
半ば反射的に構える。


「…ルーティ」

「敵意はない、構えを解いてはくれないか」


彼の姿を見るのは久方ぶりのことだ。以前彼は私と同じ「秘密裏の任務」に駆り出されて以来、姿を見なかった。
今こうして目の前に見ることも叶わないと思っていたが…


「察しの良い君なら分かるだろう」

「ええ、随分と手厚く"保護"されているようね」

「そうだ。詳しく話そう、ついて来るがいい」


このどこか見透かしたような言い方、どこか聡明な振る舞い。なるほど私が接してきた彼に間違いは無いらしい。
ならば何故我々と同じ陣営にいた彼が向こうに手を貸している?私は意図を知る必要がある。
意図を知って、それを伝えなければ。報告をせねば。

少しもしないうちにその部屋に辿り着いた。
見た目は他と何ら変わらない。変わらないのだが…


「アッてんめッやりやがったなッ」


多少の雑音と共に聞こえるこの騒がしい声。私に軽口を叩いてきたこの剽軽な声。
それだけは流石に覚えている。


「彼はいつもあんな調子でな、私だけでは相手が務まらない所だった」


そこには赤い閃光と共に我々を攻め立て、打ち勝ってみせたあの長身の男。
そして、その隣には黄色の閃光でもってその男を攻め立てた私の仲間…イグニムがいるではないか。
彼らが並んでテレビゲームに勤しむ光景が、私の目に飛び込んできた。

 

これはどういうことだ?

 

イグニムは敵の手によって懐柔させられたのか、はたまた洗脳でもされているのか?
いや、先程のルーティの言動を見るにそういうことではない。「"保護"されている」ことに対し否定はしなかった。
ならばルーティが何か敵陣営で秘密裏に策を講じているのか?それとも…


「お嬢さん混乱しているようだ、無理もないな?敵と仲間が肩並べてお遊戯に夢中だ、俺ならションベン漏らすね」

「まあ、これには少々複雑な理由があるから仕方ないと思われるよ…」


思考を巡らす私の前に見慣れない男が二人、部屋の奥より現れる。
一人は長い髪を束ねメガネをかけた色白の顎髭男、もう一人は大きなゴーグルに癖っ毛を絡ませている白衣の男。
察するに、ゴーグルの方は研究職寄り…もとい、これらのメンテナンス、オペレーター役だろうか。
軽口を叩く男のことはおいておこう。


「オッ目が覚めたかお嬢さん、隣のこいつが待ちわびてたぜ」

「…」


その男は対峙した時とまるで変わらず、しかしまるで敵ではなかったかのように、私へと声をかけてきた。
イグニムは相変わらず無口ではあるが…少なくとも敵意を持っていないことは分かる。
相も変わらず状況が理解できない。電子化されたという私の頭でさえ理解が追いついていない。


「申し訳ないテリジオ、彼女には少々遡っての説明が必要なようだ」

「の、ようだね。いいよ、最初からそのつもりだった」


白衣の男が私の前へと歩み寄る。


「はじめまして、テリジオと言います。この世のα-type KBNを保護する為に動いているよ」

 


それから私はテリジオによる説明を受けた。

最強の人形兵器、もといα-typeKBNが生まれる要因となったKBNprojectの存在と破滅。
それにより犠牲となった人々と、孤独となったレイヴント。
それらα-typeKBNを悪用せしめんとする存在の観測。
加えて眼鏡の顎髭の男…ハルクスがこの街、クウェールを牛耳る存在ということ。…これは意外だった。


だが目の前の男の悲惨な過去を知ったとして、私には成すべきことがあることに変わりはない。
私には使命があるのだ。このことを報告せねば。報告 を 。
任務 の遂 行  を …


「誰に報告すると云うのだ、特殊工作兵"アハトナ"よ」


ルーティのその一言で私の思考は完全に停止した。

誰に?何処に?報告することだけが残り、「報告する対象」の記憶が抜け落ちている。
彼と、テリジオがまくし立てるかのように続ける。


「それが、私がこちら側に下った理由だ」

「ルーティが襲撃に来て、それを保護した時も内部のメモリ、データを色々見させてもらったんだ」
「彼を差し向けた組織が何であるかを探るためにね。先程も話した通り、悪意ある使われ方は僕らは望まない」

「しかしそれは君と同じく、綺麗に抜け落ちていたのだ。機械的に言うならば"消去された"とでも言おうか」
「まるで我々は使い捨てにされたようじゃないか」


なるほど、負けてしまったならばいくら戦力的に優れていても切り離す。
負けた兵のいた組織の一切の情報を消し去ってしまい、その身元を明かさないようにする。
そうすれば自身の情報は向こうには渡らない…

だがそれはまさしく、兵を使い捨てにする者の発想だ。
第一、一軍隊がかかっても敵わない超兵器を使い捨てにする発想など出てくるものか疑わしい。
更にハルクス、レイヴントが口を挟む。


「使い捨てたならば彼らの戦力は減るさね。では何故そんなことをするに彼らは至るかな?」
「彼らは既にその超兵器を増産できる体制にあるということなのさ」

「そしてそれが何を意味することか分かるよな、お嬢さん」
「俺みたいに"半永久的に死なない奴"が続々生まれちまってるってことだ」


永久に死なない。不死とは人が夢見た叡智の極み。
だがそれは自然の摂理に反し、やがては世を破滅に追いやる禁忌。
願ってもない夢が手に入れられると思えば一部の人間には良いのだろう。良いのだろうが。


「俺はな、こんな身体で何もかも失って生き続けていかなくちゃならねえ悲しい奴は、俺以外にいらねえって思ってるだけなんだ」


その眼は機械でありながら、しかし悲哀の込められた眼差しを、ただ地に向けていた。

彼、レイヴントは自身の身体と引き換えに人との関係を物理的に全て失ったと言っていた。
つまりそれは悪魔に捧げる生贄の如く、神に捧げる供物の如く、老若男女構わず皆死んでいったということだろう。
望まぬ犠牲の先に生まれた望まぬ結果。その現実は彼の奥深くに突き刺さり、永久に彼を苦しめる。

そんな現実を安々と見過ごしていられるほど私も無情ではないらしい。
彼のその眼差しを見てから、対象の"消された"使命などというものは振り払った。


「そんな膨大な戦力を持つ組織と我々が派手に争いを起こそうなら、被害は計り知れないものになる」
「第一こうにまで使い捨てにしてくれる組織など、ロクなものではないことは分かっているわ」


私はテリジオの手を取り、握手を交わす。


「貴方達の行いに協力させてもらいたい。よろしく頼めるかしら」

「ああ、喜んで」


甲高い音と、鈍い金属音が入り交じる拍手が二つ。
ハルクスと、レイヴントのお調子者二人によるものだ。


「よし、これでイグニムも含めて仲間ってことで」


そういえばイグニムについてほとんど話を聞いていなかった。
彼はこのやり取りの間一切黙ったままで、その意図を聞いていないが…


「…俺は俺の正しいと思ったことをするまでだよ」
「この場ではお前らが一番正しい筈」
「だから付いて行くよ」


杞憂だったようだ。戦場では破壊の限りを尽くす彼もこう見えて冷静な考えを持っている。
先程のような話を聞いて私と同じような結論を出したのだろうか。
じゃあ先程テレビゲームをしていたのは…?


「ああ…このゲームなんだけど、今後の方針にも少し絡むことなんだ」
「これはレイヴントの趣味で購入したものでね、色々ソフトを買い揃えている」

「ちょうど四人集まったし、今度このスマ●ラってのやろうぜ」

「待て、それは今なら八人まで同時プレイできる」

「あ~良かった~ハルおじさんハブられないで良かった~」

「あっと脱線しかけてるぞまずいぞ、話を元に戻そう」
「君たちの組織に関するデータは現在消去されていることが分かってる、先程も言ったね?」
「しかし組織以外のデータ、言わば記憶からその組織の大まかな所在が割り出せるのではないかと思うんだ」

「例えば日常の所作、言動、習慣ってところだ。人それぞれあるもんさね」

「生身の人間だった頃の記憶や習慣は現在も引き継がれているんだ。今は出しにくいだろうけど」
「日常を色々過ごしていく上でその無意識的にやっていた所作、習慣、好みが現れるかもしれない」

「俺は高所からの落下が好きだったらしいぞ」

「それらを逐一まとめて調査する。気の遠くなる作業かもしれないが、監視体制の転送ログにも残ってないんじゃコレくらいしかできない」
「ゲーム機はそれの一環だよ。君たちにはこの先しばらく普通に過ごしてもらうことにする」


つまりしばらく戦いからは身を引いて過ごすということになりそうである。
だがこれはとても久々な感覚がする。
人ならざるモノとなった我々が、人としての生活を謳歌する…


悪くは無い。むしろ愉快ではないか。


彼らの使命の為、我々の使命の為。

私も日常を謳歌することにした。


それがこの世を護ることに繋がると信じて。

 


Alpha Knights 

Double Interception "Epilogue"

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KBNΘの真名は「アハトナ」でしたとさ。

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↑コレのエピローグでした。こんなところに載せるのもどうかと思うので後でどこかに移そうかな~と考えてます。

おおまかな構想はまとまっていたので文章化はスムーズでしたが、漫画となるとそうもいかない現実。本来はうごメモでやるべきなんだろうけども…ウウム…

あくまで棒バトがメイン、こちらはそれに付随する設定としてお楽しみいただければと思います。

それではそれでは